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2018.11.29

法務情報

2020年改正民法施行に向けてー個人根保証の極度額設定が必要にー

 

こちらの記事は、移動しました。

 

 

 


2020年民法改正施行に向けて|個人根保証の極度額設定が必要に

 

 

最近、民法改正についての問合せが多いので、民法改正についてのレポートです。

 

今回は、不動産賃貸管理業向けに改正点を整理したいと思います。  

 

内容的に問題となる点は、大まかにいって、保証関係のルール変更、賃貸借契約のルールについての明確化等、その他の問題点と分けられると思います。  

 

まずは、その中でも変化の大きい「保証関係のルール変更」について、その中でも最重要な改正点である極度額設定のルールについて確認しておきたいと思います。

 

改正内容は、一言でいうと、賃貸借契約の個人保証には極度額の設定が必要になる、という点です。

極度額というのは、保証の上限額くらいの意味です。  

従前の契約書ではどうか?

 

これまでの不動産賃貸借契約書では、通常、賃借人を設定する際に、保証する最大限の額(極度額)の定めなく、連帯保証をしていることが通常だと思います。

 

たとえば、以下のような条項で連帯保証していることが通常と思われます。

これまでの条項 連帯保証人は、賃貸人に対し、賃借人と連帯して、本契約から生じる一切の債務を負担する。本契約が更新された場合も同様とする。

 

このように上限額の記載はありません。

 

ですので、連帯保証人は、文字通り、「本契約から生じる一切の債務を負担する」のであり、原則としては、100万円でも、1000万円でも義務を負うことになります。

なぜ法改正されるのか?

 

では、なぜ法改正されて極度額の設定が必要になるのでしょうか。

 

問題は、いくらまでの責任を負うのかが不明確なところです。  

 

これまでの契約条項ですと、連帯保証人としては、どこまでの金額を負担しうるのかがわかりません。

 

賃貸借契約から生じる損害賠償といっても、たとえば、賃料の不払いもあれば、賃借人が何かを故意または過失で壊してしまった場合の修繕費、場合によっては、賃借人が物件内で死亡した場合の損害賠償義務の負担など様々です。  

 

そうなると、連帯保証人としては、どこまでの債務について連帯保証しなければならないのかが明らかでなく、予想もしないような高額の請求がなされて、予想外の負担を負うことにもなりかねません。

 

そこで、改正民法では、連帯保証人が負うべき最大限度額を書面等で契約しなければ保証は無効となるというルールを新たに定めました。

 

あらかじめ○○万円の責任を負うという契約にしてあれば、連帯保証人予定者は、「あ、○○万円までは責任を負わなければならないんだな」と上限額を理解して契約できるからです。

 

さて、この改正ですがポイントは3つです。

 

  • ① 対象は個人保証に限られること。
  •  
  • ② 極度額(連帯保証人が負う最大負担額)を明記する必要があること。
  •  
  • ③ 極度額の定めがなければ保証は無効であるということ。
  •  

① 対象は個人保証に限られること

今回の改正での対象は、個人保証に限られます。

 

いわゆる保証会社などの保証では、従前通りに極度額を定める必要はありません。  

② 極度額(連帯保証人が負う最大負担額)を明記する必要

前記の説明のとおり、契約書の条項に極度額の明記が必要となりました。

 

ここでいう極度額が連帯保証人の負担しうる最大限の額となります。  

 

ちなみに、合計額というのは、以下のとおりの意味となります。  

 

たとえば、家賃10万円の物件で、連帯保証人の極度額を120万円と設定していたとします。

 

そうすると、連帯保証人に対しては、滞納家賃や原状回復費用などは合計最大120万円しか請求することができません。  

 

たとえば、滞納賃料が膨らんで150万円になってしまったという場合でも、120万円までしか請求することはできません。  

 

また、一度、連帯保証人から50万円支払ってもらい、その後、しばらく経過して原状回復費用等で100万円かかったという場合には、それぞれの支払いが120万円以下ではありますが、

連帯保証人に請求できる合計額が120万円ですので、後者の原状回復等の請求は70万円までしかできない、ということになります。

 

 

そうすれば【極度額を大きくすればよい??】

 

このように考えると、極度額を1億円とか、通常はそのような金額になりえないような高額の金額設定をしておけばよいのではないか、と思われるかもしれません。

 

しかし、これには問題があります。  

 

一つの問題は、高額な金額設定がなされていることにより、連帯保証人の承諾が取りにくいというところです。

 

連帯保証人として100万円まで責任を負いますよ、という場合であればまだしも、1億円まで負いますよ、と説明されると躊躇してしまうケースもありうるところです。

 

(現行法は、連帯保証というだけで保証限度額の際限はないわけですが、1億円という具体的な数字が出てくると不安感はある。)

 

こうなると連帯保証人の確保が難しいかもしれません。  

 

もう一つは、高額の場合には、公序良俗に反して無効(民法90条)という可能性が生じてきます。

 

一般の賃貸物件、極度額を100億円に設定するような場合などは無効の可能性が出てくると思われます。  

 

なぜなら、なんでも大きな額までの保証を要求することで、極度額の設定をしなければならないと定めた法の趣旨が失われてしまうからです。

 

(要するに、法改正した意味がなくなってしまう、ということ)

 

ただ、いくらなら無効なのか、というのが法律ではっきり決まっているというわけではありません。

 

一方で、無効となった場合には、連帯保証人をつけていたとしても、連帯保証人に請求できなくなってしまいます。

 

ちなみに、改正後の条項は以下のような条文の構成が考えられます。

 

改正後の条項 連帯保証人は、賃貸人に対し、賃借人と連帯して、本契約から生じる一切の債務を、極度額○○○万円の範囲内で保証する。本契約が更新された場合も同様とする。

 

 

【どのような極度額の設定が妥当か】

 

大きすぎては駄目で、一方で少なすぎると保証の範囲が狭まります。

 

では、そうなるとどのような額の定めが適切か、という問題になります。  

 

この記事を書いている2018年11月末の段階で、まだまだ改正民法に対応してどのような金額設定をしていくケースが多いのか、まだ流動的な状況にはあります。

 

この点に関して、参考資料となるものとしては、国土交通省からは、「極度額に関する参考資料」(平成30年3月30日国土交通省住宅局住宅総合整備課)というものが公表されています。

 

これが極度額の設定のためには、参考になると思います。  

 

たとえば、同資料によると、賃料8万円~12万円の物件であれば、240万円以下で99.6%の件数がカバーされています。このことからすれば、賃料10万円の物件であれば、24か月分の240万円と設定すれば、ほぼすべての事案で連帯保証人にこの程度の義務を課すと設定しておけば、連帯保証人により債務の支払いがカバーされるといってもよいと思われます。

 

(ただ、賃借物件内での自殺による損害賠償など、イレギュラーが発生すると難しいケースもあるように思います。)

 

もちろん、このあたりは今後の動向も含めて確認が必要です。  

③極度額の定めがなければ保証は無効であるということ

 

極度額の定めがなければ、保証それ自体が無効になってしまいます。

 

つまり、契約書条項を改訂した契約書を利用する必要があるということです。

これまでの条項 連帯保証人は、賃貸人に対し、賃借人と連帯して、本契約から生じる一切の債務を負担する。本契約が更新された場合も同様とする。

といった契約書をそのまま利用している場合には、賃貸借契約の保証に関する部分は、「無効」となってしまいます。

 

「連帯保証人は内容を納得しているから」「ちゃんと署名押印してもらったから」と主張したところで駄目です。極度額の記載がなければ、無効です。  

 

ですので、施行日以降の新規の契約で、改訂後契約書を利用せずに契約をした場合には、いくら連帯保証人のハンコを押してもらっても法律的に保証としての意味はないということになります。

契約書の改訂が必須となります。

 

(個人根保証契約の保証人の責任等)
第四百六十五条の二
(1)一定の範囲に属する不特定の債務を主たる 債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約 」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる 全て のもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、 その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
(2)個人根保証契約 は、前項に規定する極度額を定めなければ、 その効力を生じない。
(3)第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、 個人根保証契約 における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。

弁護士:大橋 良二

 


本記事は2018年11月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。

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