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2018.6.14

法務情報

2018年6月15日から変わる不動産業界

2018年6月15日は、不動産業界にとっても大きな変化の節目となります。
ポイントは、2つです。①住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)の施行と、②改正旅館業法の施行です。
 

1 住宅宿泊事業法の施行

一つ目は、住宅宿泊事業法の施行です。こちらの住宅宿泊事業法という法律は、いわゆる「民泊新法」と呼ばれるものです。
 

数年前からairbnbなどの日本進出などもあり、日本でも民泊ビジネスが大きく広がってきました。当初は、本来は旅館業法の許可が必要であるにもかかわらず、そのような許可を取得しないまま賃貸物件の一室などを利用する、いわゆる「ヤミ民泊」などが行われてきました。
 

日本政府の観光立国化推進の流れによるインバウンド需要と、airbnbを始めとしたグローバルなマッチングサービスの台頭により、主に都市部を中心に民泊サービスが広がりました。
 

その一方で、民泊サービスの多くは投資目的で素人的なオペレーションで回すような物件もあり、結果、ゴミや騒音といった苦情や犯罪の温床となることもあり社会問題化してしまいました。
 

結果、民泊について適切なルールを定める必要が生じ、正式に住宅宿泊事業法という形で合法民泊のルールが作られたことになります。
 

本来であれば旅館業法の許可が必要である「宿泊」事業について、許可ではなく「届出」により行うことができる、という規制緩和といってよいと思います。
 

ところが、このようにして実際には3月の届け出開始から出足は遅いようです。問題となるところは大きく3つに整理できるように思います。
 

一つは、宿泊日数「180日制限」の問題です。住宅宿泊事業法に基づく「宿泊」は、最大で年間180日までしか認められません。要するに、年間の半分しか民泊物件として稼働させることができないということになります。これは、それまでのヤミ民泊物件が1年間365日稼働なしえたことからすると、大きなハードルになります。
 

当然のことながら、宿泊施設でどれだけ安定した収益を上げられるかは稼働率勝負です。それなのに、そもそも最大稼働率が50%に制限されてしまうことになれば、収益性に限界があることは明らかです。これで撤退や参入を控えたという方も少なくありません。
 

そして、次の問題は、上乗せ条例の問題です。これは、法律上のルールに加えて、各自治体がさらに条例で、住宅宿泊事業法に基づく民泊のルールをさらに「上乗せ」して制限してしまっている、という問題です。
 

上記のとおり、180日に制限されて、稼働率上限を定められてしまったところ、さらに自治体によって上乗せがされているケースです。典型的には、住宅専用地域においては月曜から金曜までの平日の民泊を禁止するとか、そういったものが多いです。京都市のように、冬場の閑散期のみ2か月、というものもあります。
 

こうなると、実質上、趣味的な民泊は別として、そのような条例による制限が行われるエリアでは民泊ビジネスは事実上困難な状況になるといわざるをえないです。ただでさえ、180日制限で稼働率を制限されながら、さらに制限されてはビジネスとしてはもはや成り立たたせることは難しい。
 

さらに、3つ目の問題は、規制緩和と言いながらそれなりに住宅宿泊事業法に基づく規制が厳しいという問題です。消防関係、苦情対応まわりが厳しいです。
 

当事務所の顧問先の不動産会社様でも、この制限が厳しいがゆえに、住宅宿泊事業法には関心がない、という会社様もあります。
 
 

2 改正旅館業法

住宅宿泊事業法を利用した運用が難しいとなるととどうするか。一つのパターンとしては、二毛作といって、賃貸物件であるマンスリーマンションと併用するパターンがあります。これについては、また別の機会に解説を加えたいと思います。
 

そして、もう一つが、旅館業法により、そもそもホテル・旅館、あるいは簡易宿所の要件を満たした物件を運用しよう、というものです。
 

確かに、もともと不動産管理会社を含めた企業が宿泊事業を展開するのであれば、民泊というよりも旅館業として許可を取得するのが本来なのかもしれません。この場合であれば、当然365日稼働することができます。
 

この場合には、これまで問題となってきたところとしては、(これまでは主に簡易宿所の許可を取得するのが主流でしたが)、トイレやフロント設置などの問題がありました。また、ホテル業や旅館業に関しては客室数制限があり、一つの部屋だけの旅館などは認められていませんでした。
 

ところが、今回の旅館業法改正(関係法令含む)により改正され、ホテル旅館業の許可が取りやすくなります。客室制限は撤廃され、一部屋ホテル・旅館も法律や政令のレベルでは可能となります。
 

これまでのようなある程度規模のある物件でなくても、小型の宿泊施設とそれを管理するハブとしての管理事務所のような形式で、ホテル・旅館事業等を展開できる可能性が生じてきました。
 

この改正旅館業法の規制緩和の施行が、住宅宿泊事業法の施行と同じく2018年6月15日となります。
 

これにより、ホテル・旅館業の客室数制限が撤廃されたり、トイレ要件が具体的な基準から抽象的な基準となり、許可の取得が容易になったといえます。
顧問先の不動産会社様でも、住宅宿泊事業法よりも、365日稼働が可能なこの旅館業法改正を軸にしている会社様も少なくありません。
 

ただし、問題もあります。こちらについても住宅宿泊事業法と同様に、自治体による上乗せ条例の問題があります。
 

条例でフロント設置や、管理者の常駐を要求している自治体もあり、小規模な宿泊施設による運営が可能になったといっても、管理者の常駐が厳格に義務づけられれば、小規な宿泊施設では当然のことながら採算が合わなくなり(だからこそ、ICTによる対応などが盛り込まれたのに)、宿泊事業への参入が困難になります。
このことが大きな障壁となっていると思われます。
 
 

3 おわりに

以上から読み取れるのは、国の政策(法律)としては外国人観光客の増加に対応し、なおかつ、多様な宿泊施設を確保するために、民泊や旅館業を緩和して進めていきたいところであるのに対して、いざ自分のまわりに外国人観光客が増える地方自治体(条例)からすると、根強い住民の不安感、地元の反対の声などから、規制を強化したいという雰囲気が生まれている、と読み取れるような気がします。法律と条例の方向性の違いを感じます。
 

このように、2018年6月15日には、住宅宿泊事業法と改正旅館業法という2つの大きな法律がそれぞれ施行されます。
 

不動産業の皆様としてはオーナー様へ新しい貸方を提案する、という意味で外せない大きな改正ですので、今後の動向を注目して行きたいと思います。
 

弁護士:大橋

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